独自の世界。マーラーの3番(その1)

世界をどう語るか。
数学や物理学が一つの世界の見方の提供であるように
音楽もある種の世界観の表明である。

久しぶりにマーラーの3番を聴いた。
iPodのお陰で、音楽を聴く機会が増えた。

これまで、細切れの鑑賞が多かったから
ジャズやポップスを聴くことが多かったが
iPodの凄いところは、何でも取り込んでおける点だ。

で、ちょっとウェザーリポートに聞き飽きたところで
メニューを探っていたら、最近取り込んだフィガロやトリスタンに混ざって
マーラーの3番が出てきた。
もう何年ぶりだろう。
なぜ入っているかと言えば
先日図書館からフィガロなど何枚か借りた時に、
サロネン指揮・ロサンゼルスフィルの3番も目に付いたからだ。
マーラーはバーンスタインが一番だと思っていた。
だが残念なことに、買い集めたのがLP時代だったから
iPodのような秘密兵器には取り込めないままだった。

マーラー自体が独自の表現形式の作家だと思っていたが
その作品の中でも、この3番は特別だと感じていた。
雄大で清らかで精緻で奔放で・・・・・

これほど自由にモノを語れる人がいたことに愕然とした記憶がある。
マーラーには、音楽学校の生徒達に、
「作曲するならドストエフスキーを読みなさい」とアドバイスしたという逸話があるが
その話はまさにこのような音楽作品を作れた人ならではという気がする。

で、久しぶりに聴いてびっくりした。
昔からこの曲に感じていたのは、
雄大な宇宙そのものを象徴した大規模な作品との印象だったのだが
今回聴いて感じたのは、とても繊細な作品だということだ。
いきなりホルン8本のユニゾンがff(フォルテッシモ)で朗々と肯定的なテーマを歌う。
力強い微笑みや励ましを感じる。
無伴奏のこの歌い出しに
弦のトゥッティ(全合奏)がやはりffで相づちを打つ。
この出だしの印象があまりにも強烈なので、この作品自体が大げさで強さが前面に出た
雄大なだけの作品という印象があったのだ。

ところがだ、この雄大な出だしの直後に
もう「まどろみ」が始まっていた。
練習番号1(全音出版のポケットスコア)ではホルンはpp(ピアニッシモ)になっている。
ラー、シラシラシラシラー
という眠くて仕方ないといった趣のテーマを呟くように吹いている。
この「まどろみ」の世界に、唯一鋭く釘を刺すような弱音器付きのトランペットの雄叫びが差し挟まれるが
これは「まどろみ」ながら見る白昼夢にうなされた人のうわごとのように聞こえる。
背後には、定期的に、軍楽的な行進のリズムが聞こえる。
出だしで朗々と歌っていたホルンは
切れ切れのメロディーを時々大声でわめく。
もやもやとしたまどろみの世界は
あっという間に、昼間見る悪夢へと変わっていたのだ。

練習番号11から、突然、弦の高音のトレモロに乗って
木管のかわいらしいハミングが始まる。
白日の悪夢から覚めたのだろうか。
それとも夢の中で天使が表れたのであろうか。
オーボエの流れるようなソロに続き
ソロヴァイオリンが乙女の恥じらいの様な歌を歌う。
でも、この清純な世界も長くは続かない。
また不穏な軍楽的な行進のリズムが始まる。
この雰囲気を保ったまま
こんどはトロンボーンがけだるいメロディを歌い出す。
伴奏のリズムは終始pp(センプレ・ピアニッシモ)と指示されているのに
トロンボーンのメロディにはffと指示されている。
このメロディ自体が、3連符が多くて、逡巡している感じ。
悩める若人の独白のようだ。
先ほど見た夢を思い出しているのだろうか。
しかし、練習番号18から、また清純な木管のハミングが復活し
しばしの安息を感じさせる。
このハミングは、弦の軽やかなリズムを導き
安定したテンポの落ち着いた楽想へと落ち着く。
確実に目覚めたという感じだ。
鳥のさえずりのようなピッコロが心地よい。
この安定した伴奏の上に、冒頭のホルンの力強い歌が復活する。
断片的な叫びから、朗々とした歌へと戻っている。
練習番号23からだ。
練習番号24には、トランペットのファンファーレも聞かれるが
もう弱音器も外され、にこやかで英雄的な音楽に変わっている。
弦の合奏も歌う。
楽器がどんどん受け流され、誰もが陽気に快活になった感じ。
音楽があふれ出してきたといった感じがする。
この英雄的な音楽は永遠に続くかのように感じさせていたのに
練習番号28の後半から、突然嵐のような楽節がわき起こる。
ハープのグリッサンドが効果的だ。
私は、この曲を初めて聞いた時から
この部分を「思考停止の音楽」と呼んでいた。
今聞くと、「停止」ではなく、「飛翔」という感じだ。
ユリイカと呼ぶのだったか、「あっ閃いた(ひらめいた)!」という感じだ。

もう生徒が来る。
今日はとりあえずここまでにしておこう。

テーマ : クラシック音楽 - ジャンル : 学問・文化・芸術

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